ラマダス：ポルトガルに息づく伝統的なブドウ栽培

ラマダス：ポルトガルに息づく伝統的なブドウ栽培

ブドウの樹が織りなす空中の回廊

ポルトガル北部、特にミーニョ地方の風景を語る上で欠かせないのが、「ラマダス」と呼ばれるブドウの樹の仕立て方です。日本ではあまり見かけることのないこの伝統的な方法は、まるで生きたブドウの樹で編まれた回廊を作り出します。
その風景は、空に向かってまっすぐに伸びる幾本もの柱から、横に伸びる枝が幾重にも重なり合い、まるで緑の天井を作り出しているかのようです。その天井の下を歩けば、まるで緑のトンネルを抜けているかのような、幻想的な気分に浸ることができます。
このラマダスは、ただ美しいだけでなく、古くからこの地方の人々の生活を支えてきました。ブドウの生育に必要な日光を確保するために、また、限られた土地を有効に活用するために、先人たちの知恵と工夫が凝縮されているのです。
複雑に絡み合いながら空に向かって伸びるブドウの樹を見上げると、そこには自然と人間が共存し、長い年月をかけて築き上げてきた歴史と文化を感じることができます。それは、単なる農法の一つを超え、見るものをどこかノスタルジックな気持ちにさせる、美しい景観を生み出しているのです。

伝統的な仕立て方法「ラマダス」の秘密

ブドウ栽培において、仕立て方法はブドウの生育やワインの味わいを左右する重要な要素の一つです。「ラマダス」は、古くから伝わる伝統的な仕立て方法で、その名の通り、ブドウの枝をまるで空中に張られた網目状のトンネルのように仕立てていきます。

ラマダスでは、まず支柱となる木をブドウ畑に立て、その木と木の間をブドウの枝で水平につないでいきます。こうして作られるトンネル状の構造は、太陽の光を効率的にブドウに当てるだけでなく、風通しを良くすることで、ブドウが病気にかかるリスクを減らします。太陽の光を浴びて育った健康なブドウは、糖度が高く、風味豊かなワインを生み出すために欠かせません。また、風通しの良さは、過剰な湿気を防ぎ、カビの発生を抑える効果もあります。

かつてはこの地域で広く見られたラマダスですが、時代の流れとともに、より効率的にブドウを栽培できる棚仕立てや垣根仕立てが主流になっていきました。棚仕立てや垣根仕立ては、機械化に適しており、収穫量を増やすことができます。しかし、ラマダスは、伝統的な方法ならではの、ブドウ本来の力強さや複雑さを引き出すことができるという点で、近年見直されつつあります。 手間暇かけて作られるラマダス仕立てのブドウから生まれるワインは、他にはない特別な味わいを持つとされ、ワイン愛好家を魅了し続けています。

「ヴィーニョ・ヴェルデ」とラマダスの深い関係

ポルトガルを代表するワインの一つに、「ヴィーニョ・ヴェルデ」があります。その名の通り、緑を帯びた輝きを持つこのワインは、フレッシュで軽やかな味わいが魅力です。口に含むと、まるでそよ風のように爽やかな酸味と、みずみずしい果実の香りが広がります。

このヴィーニョ・ヴェルデの個性は、かつてこの地で盛んに行われていた「ラマダ」と呼ばれるブドウの栽培方法と深い関わりがあります。ラマダとは、日本の棚仕立てに似た伝統的な栽培方法で、ブドウの樹を地面から高く棚に這わせることで、太陽の光をたっぷりと浴びることができるように工夫されていました。

太陽の恵みを存分に受けたブドウは、糖度が高く、豊かな香りを蓄えます。そして、この完熟したブドウから造られるヴィーニョ・ヴェルデは、独特の爽やかな酸味とフルーティーなアロマを備えた、魅力的なワインとなるのです。

近年では、より効率的な栽培方法が導入され、ラマダで栽培されるブドウは減りつつあります。しかし、今でも一部の生産者は、伝統的なラマダ仕立てにこだわり、ヴィーニョ・ヴェルデ本来の個性を守り続けています。

時代の波に押される伝統的な栽培方法

かつて、ブドウ畑といえば、地面から伸びる力強い木の幹から、太陽の光を浴びて輝く緑の葉が豊かに茂り、その間からたわわに実った果実が顔をのぞかせる、そんな風景が広がっていました。この伝統的なブドウの栽培方法、ラマダスは、長い歴史の中で人々の生活と深く結びつき、その土地の景観を形作ってきました。

しかし、時代は変わりつつあります。農業の近代化が進み、効率性や収益性が重視されるようになると、ラマダスは次第にその姿を消していきました。機械化に適さず、人の手による丁寧な作業が必要とされるラマダスは、時代の流れに取り残されてしまったのです。広大な土地で、より多くのブドウを効率的に生産するため、機械化に適した栽培方法が求められるようになり、伝統的なラマダスは、手間がかかると敬遠されるようになっていきました。

今では、ラマダスは一部の地域で、過去の面影を伝える貴重な存在となっています。その雄大な姿は、かつて人々が自然と共存し、その恵みを享受していた時代を彷彿とさせます。しかし、その数は減り続け、伝統的な景観や文化も失われつつあります。ラマダスを守るためには、その価値を見直し、次世代へと継承していくための努力が必要とされています。

ラマダスが伝えるブドウ栽培の物語に耳を傾ける

「ラマダス」一見すると、古くから伝わるブドウの仕立て方法と捉えられがちです。しかし、その実態は、長い年月をかけて先人たちが築き上げてきた、ブドウと人とが自然と調和しながら共存するための英知の結晶なのです。

ラマダスを採用することで、ブドウの樹は地面に近い位置に茂り、まるで地面を這うように広がっていきます。こうすることで、太陽の光を効率的に浴びることができ、風通しも良くなるため、病気の発生を抑える効果も期待できます。

そして、ラマダスにはもう一つ、現代においても見逃せない大切な側面があります。それは、自然環境への負荷を低減できる、という点です。ラマダスでは、機械化による大規模な栽培は難しく、人の手による丁寧な作業が欠かせません。一見、非効率に思えるかもしれません。しかし、それは、自然のリズムに寄り添いながら、人と自然が共存するための、持続可能なブドウ栽培を実現する道でもあるのです。

効率化が重視される現代社会において、ラマダスは、私たちに大切な問いを投げかけています。本当に大切なものは何か、効率だけを追い求めることが本当に正しいのか、と。ラマダスが伝えるブドウ栽培の物語に耳を傾けることで、私たちは、現代社会における農業のあり方、ひいては、人と自然との共存のあり方について、改めて深く考えるきっかけを得ることができるのではないでしょうか。