生産方法 貴腐ワインを生む魔術師、ボトリティス・シネレア
ワイン造りの世界では、「ボトリティス・シネレア」という名前が、希望と不安の両方を象徴しています。灰色カビ病を引き起こすこの菌は、別名「貴腐菌」とも呼ばれ、その影響は複雑で、ワイン造りにとっては諸刃の剣といえます。湿気を好むこの菌は、雨の多い時期や湿度が高い地域で猛威を振るいます。ブドウの果皮に付着すると、灰色のかびを発生させ、これが「灰色カビ病」と呼ばれる病気です。健全なブドウがこの病気に侵されると、果実が腐敗し、収穫量の大幅な減少や、ワインの品質低下に繋がります。そのため、ワイン農家にとっては常に警戒が必要な存在です。一方で、貴腐菌は、ある条件下では、特別なワインを生み出す存在として知られています。晩秋、気温が低く、乾燥した日が続いた後に、雨が降ると、貴腐菌はブドウの果皮にのみ寄生し、果実内部の水分を蒸発させます。これにより、糖度が凝縮した、非常に甘いブドウが出来るのです。このブドウから造られるワインは、「貴腐ワイン」と呼ばれ、濃厚な甘みと独特の香りが特徴です。世界三大貴腐ワインとして知られる、フランスの「ソーテルヌ」、ドイツの「トロッケンベーレンアウスレーゼ」、ハンガリーの「トカイ」は、いずれもこの貴腐菌の恩恵を受けて生まれたワインです。このように、灰色カビ病菌は、ワイン造りにおいて、その両側面を理解し、適切に対処していく必要があるのです。
